EXCAVATION RESULTS発掘成果

【457集】小林八束1遺跡Ⅲ

小林八束1遺跡Ⅲ

市町村久喜市

主な時代縄文・古墳・中近世

発行年度2019

小林八束1遺跡は、埼玉県東部の大宮台地が加須低地に移行する地域に位置する。遺跡はローム台地上に形成されているが、関東造盆地運動によりローム台地が埋没しているため、現在は低地との比高差が少なく、平坦な景観となっている。遺跡の周辺には星川、野通川、元荒川をはじめとする大小の河川や用水が南北方向に流れ、
肥沃な水田地帯を形成している。
小林八束1遺跡の調査は、これまで平成19年度に実施された第1次調査(埼玉県埋蔵文化財調査事業団報告書第356集)を端緒に、平成22年度に第2次調査(同報告書第442集)が実施された。本書は平成24年度と平成25年度にわたって実施された第3次・第4次調査の報告書である。
第3次・第3次調査では、縄文時代の住居跡、土壙、遺物包含層、古墳時代の方形周溝墓群、住居跡、木組遺構などが検出された。
旧石器時代については、遺物包含層や各遺構の覆土から、わずかではあるが石器が出土した。
縄文時代については、後期(堀之内1~2式)を中心とする住居跡や土壙などが検出された。第3次調査区では谷へ下る傾斜面に形成された遺物包含層から、深鉢や注口土器、土製品といった多数の遺物が出土した。
古墳時代については、住居跡や畠跡といった集落跡とともに、それらを壊して造られた方形周溝墓群が検出された。いずれも古墳時代前期に帰属する。住居跡は、住居跡間で出土する遺物量に多寡が認められたが、出土土器の多くは在地の土器である。そのほかにも北陸系装飾器台などの外来系土器も含まれており、多様な地域性をもつことが明らかになった。また、周溝持建物跡と推定される住居跡も1軒検出された。
方形周溝墓群はローム台地が埋没していたため、9基中7基に盛土が残存しており、当地域周辺では貴重な調査例となった。そのうち2基に埋葬施設が確認され、ガラス小玉等の玉類が出土した。周溝からは大型の底部穿孔壺を中心とする壺類や高坏、小型器台等の土器が出土した。
また、第3次調査区では調査区北側の谷に下る傾斜面から、同時期の木組遺構が検出された。木組遺構は縄文時代の遺物包含層を掘り込み、杭や板材を組み合わせて造られていた。使用木材の中には建築部材からの転用材も認められた。木組遺構の周辺からは古墳時代前期の土器とともに、鍬や鋤、竪杵、横槌といった木製品が出土した。これらの完成品ととともに、平鍬や横鍬の未成品も出土した。木製品の多くはコナラ属クヌギ節と同定され、堆積層から検出された大型植物遺存体はコナラ節とクヌギ節、花粉分析の結果もコナラ属コナラ亜属が確認されたことから、周辺に自生した樹木をこの地で木製品の製作に利用したものと推定される。
また、第2次調査区と同様に、この木組遺構を内包する堆積層の上位から、榛名山由来の火山灰(Hr-FA)と浅間山由来の火山噴出物(As-B)が確認された。今後、東日本における火山活動と遺跡の関係を検討する事例が得られた点で重要である。
以上のように、第3次・第4次調査では、古墳時代前期には住居跡や畠跡(居住域・生産域)から方形周溝墓群(墓域)へと移り変わることが明らかになり、様々な遺構と遺物、そして自然科学分析の成果から当時の人々の営みを検討できる貴重な成果が得られた。

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